対談 月島奇譚
- 月島という土地は東京の歴史の中で明治以降に突然登場したんだけど、
震災や戦争経て、数々の小説や映画の舞台となったり、その当時の
面影を残す風情ある街だよね。
- そうね、月島ってのは出来てまだ百年ちょっとですからねえ。
よく江戸の風情を残してる街って言われる方もいらっしゃいますが
長屋の路地裏をみて、そんな風に感じるのかもしれませんねえ。
- そうそう、最近は月島ってえと何かと「もんじゃ焼き」って返事が返ってくるけど、こういう路地裏にほんとの魅力があるよね。
ほっとするっていうか、妙に懐かしくて落ち着く感じ。
- ウチもそうですけど、このウチは私が生まれた実家をちょっと改装して店として使ってるんです。
別段たいした家じゃないですけどね。
築何年なんてことはわからないですしね。
- いや、いい佇まいだよ、建具なんかも気が効いていて、ご主人の親父さんってのはずいぶん洒落た人だったんだなってのがわかるよ。
今は、どんどん廻りにも高層マンションなんかが建っちゃって、近所付き合いも段々希薄になっちゃう一方だけど、昔みたいな長屋のコミュニケーションが大事になってくると思うんだよね。
- こんなこと言うのもなんですが、月島で料理をやってると、京都や観光名所にはない、もっと身近で大切なものを残さなきゃいけないなって気になるんです。
建物ももちろんそうですが、ここら辺に昔から伝わる料理もそうです。
例えば、ハマグリや浅利なんかは昭和初期までは前の海でなんぼでも採れたようですが、ここらでは、それを普通に味噌汁にしてたんですよ。
今では国産のハマグリなんか手に入りにくくなって、幻の食材ですよ。
- 「葱ま鍋」だって
そうだしねえ。
- そうですね。
昔はトロでやってたのが、今は刺身で食べるし、いろんな
具を入れてしまいますからね。
- そういう旨いものが無くなるっていうのは気が気じゃないな。
ご主人、こないだ言ってたアオヤギのしゃぶしゃぶ作って頂戴よ。
- かしこまりました、
少しお待ちを・・・